看護師のキャリアアップといえば・・・?
皆さんは、”看護師のキャリアアップ”と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?
皮膚・排泄ケアや感染管理、救急看護などに代表される認定看護師や、大学院修士課程を修了してチャレンジする専門看護師などが代表的なものではないかと思います。最近では、国の行う研修を修了することで特定行為を実施することのできる、一般に「特定看護師」と呼ばれるキャリアを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。
中には、病院などの医療機関を飛び出して企業などで働く看護師や、訪問看護ステーションなどを開業する看護師などに、新たなキャリアの方向性を感じる方もいることと思います。また、近年では看護師が活躍するフィールドがどんどん広がっていて、既存の価値観に縛られずにフリーランスの看護師として活躍する人も増えてきているようです。
一昔前のキャリアアップは役職に就くことだった
今でこそ看護師としてのキャリアには多様性がみられるようになってきましたが、昔は主任や師長といった役職に就いて、組織の中で立場が上になることをキャリアアップと捉えていました。他職種や一般企業などにおいては一部署あたりの職員が10名前後であり、それぞれに役職者がついているためポストの絶対数が多いのですが、看護の世界では一般スタッフの数が圧倒的に多く、役職のついているスタッフはごく少数です。一つの看護単位の職員を20名程度とすると、その中から師長になる人は1/20しかおらず、そのさらに上の看護部長ともなると、組織の規模にもよりますが、数百名で構成される部門においてたった1名しか存在できないという、非常に狭き門であるといえます。
管理職に対するイメージは?
病棟で勤務している方にとって、師長や部長といった管理職はどんなイメージでしょうか。
- 「責任が重く大変そう」
- 「仕事が多い上に残業代も出なくてキツそう」
- 「怖い顔をしていることが多くて近寄りがたい」
といったネガティブなイメージでしょうか。それとも、
- 「いつも元気ではつらつとして楽しそう」
- 「自部署を切り盛りすることができて面白そう」
- 「いろんな経験をしていて頼りになる」
というようなポジティブなイメージでしょうか。
おそらく、各自がこれまで接してきた師長さんなどのイメージが、そのまま管理職のイメージに直結しているのではないかと思います。
ネガティブなイメージを持っている人は、キャリアの方向性に管理職を選択しにくいかも知れません。前述したように、ただでさえ狭き門といえるポジションですから、ネガティブな印象であればなおさら目指しにくいものと思います。
一方、ポジティブなイメージを持っている人は、管理職を看護師としてのキャリアの延長線上において考えることが自然だと考えている人もいるのではないでしょうか。ともに働く主任さんや師長さんをロールモデルとして見ている人もいるかも知れません。しかし中には、主任・師長などの役職は自分には縁のない遠い存在と考えていて、キャリアアップの方向性に役職を選択することなど想像もつかないという人もいることでしょう。
管理職をキャリアとして捉える
看護師の職務内容の最も多くを占めるものは、患者さんやご家族の一番身近な場所にいて、病気の療養や日常生活のサポートについて手助けをすることなので、看護管理者の仕事についてはイメージしにくいものです。
そこで、順番にその役割を見ていきたいと思います。
●主任
主任は役職者ではありますがスタッフナースですので、一般スタッフと同じような役割をもって働きます。そこに看護単位内での役割や教育的な関わりなどがプラスされ、リーダーシップを取って現場を引っ張り、スタッフのロールモデルとなるような模範的な姿勢が求められます。
●師長
師長は看護単位を丸ごとマネジメントし、患者さんが安全で快適に過ごすことのできる環境を提供することが仕事です。必要な看護用品や設備を整え、勤務形態やシステムを考えて、スタッフが健康で働いて良い看護を提供できるように配慮します。病院や看護部の方針を理解して、目標を達成するためにスタッフを動機づけしたり、日々発生するトラブルに対応できる能力が求められます。
●看護部長
看護部長は病院の経営的な部分を常に把握して、どうしたら看護が病院に利益をもたらすことができるかを考えます。看護部は病院の中で最大の部署であるところがほとんどですので、病院の良し悪しを看護部が左右すると言っても過言ではありません。看護師が楽しく健康で働くことができればよい看護が提供でき、患者満足度も上がります。選ばれる病院になるためには、看護のレベルアップが非常に重要なわけですから、看護部長は全体を見渡して、どうしたら理想の看護部にできるか考えて、方策を実践します。責任重大ですが、その分非常にやりがいのある仕事であると言えます。
このように見てくると、スタッフナースの仕事と看護管理者の仕事は全く別のものではなく、担当する分野と役割が違うだけで、すべて延長線上にあるものだということがわかります。患者さんによい看護を提供したいという根本的な思いは一緒ですので、看護師一人ひとりができることが限られている以上、師長や部長といった看護管理者が全体の質を上げ、より大きな力を引き出すように関わる必要があるのです。
自分のやりたい理想の看護を実現するため、理想の看護単位を作るという目標がある人にとって、看護管理者というキャリアは魅力的なものであると言えるのです。
認定看護管理者という資格について
では、どうしたら看護管理者になれるのでしょうか。
病院によって規定が異なるため一概には言えませんが、一般に次の二種類の方法があるようです。
・病院あるいはグループ内で行われる昇任試験を受けて合格した場合
・師長や部長など、上長の推薦によってなることができる場合
昇任試験のある病院の場合は、管理者になることを希望する人に対し門戸が開かれているといえますが、推薦式の場合は誰にでもチャンスがあるというわけではありません。しかし、自分のキャリアの方向性を目標面接などで師長に伝えておくことはできます。それを前提として普段の仕事ぶりなどが評価されれば、推薦してもらうことができるかも知れません。
そうやって晴れて看護管理者になったとします。スタッフナースの時と役割が違うので、看護管理者になったからといってスムーズに仕事が進められるかというと、なかなかそうはいきません。いろいろな苦難に直面して、試行錯誤しながら日々を過ごしていくことになります。看護管理者向けの院内研修などもありますが、系統的な教育は院内だけでは限界があります。院外の単発の研修に行ったり、同じ立場の管理者と話し合ったりすることもあるでしょうが、それでも課題を解決するには充分とはいえません。
そういった現状を解決する目的や、看護管理者の道を志す人たちが目標をもってキャリアアップできるように、日本看護協会が設定している資格があります。それが、認定看護管理者です。
認定看護師と名前が似ているので混同されやすいのですが、認定看護管理者と認定看護師は別のものです。認定看護師が各分野の専門知識やスキルを高めた人が名乗れる肩書である一方で、看護管理上必要とされる知識や考え方を身に付け、マネジメント能力のある看護師として認められた人が、認定看護管理者と名乗ることができるのです。
この資格は、組織によってまちまちな看護管理者のキャリアパスを一本化し、明確にしたものであるということができます。
認定看護管理者になるには?
認定看護管理者になるために最低限必要な条件は、
・日本の看護師資格を持っていること
・看護師としての実務経験が5年以上あること
の二つです。それに加え、
1. 日本看護協会が認定した教育機関で、ファーストレベル・セカンドレベル・サードレベルの3つの認定看護管理者教育課程を修了している
2. 看護系大学院で看護管理を専攻し修士号を取得しており、修士課程修了後3年以上の実務経験がある
3. 師長以上の職位で看護管理経験が3年以上あり、看護系大学院で看護管理を専攻し修士号を取得している
4. 師長以上の職位で看護管理経験が3年以上あり、大学院において管理に関連する領域の修士号を取得している
の4つのうち、どれか1つに該当する人が認定試験を受験することができます。
認定試験は筆記試験のみですが、選択式と記述式があり、具体的な管理場面を想定した問題が出題されるため、状況をイメージして答えることのできる能力が必要です。ですから、認定看護管理者教育課程や大学院における学習を修了していれば簡単に答えることができるかというとそうでもなく、ある程度は現場における看護管理経験があった方が有利であると考えられます。
認定看護管理者教育課程とは
前項で述べた4つの条件のうち、最も身近なものが1に挙げられている認定看護管理者教育課程(ファーストレベル・セカンドレベル・サードレベル)を受講して受験資格を得ることですので、それについて少し詳しくみていきたいと思います。
●ファーストレベル
看護管理の基本的な部分を習得するコース。日本看護協会の受講要件によると、「管理的業務に関心があり、管理的業務に従事することを期待されている者」とあり、主に主任・副主任あたりの役割を取っている人が対象となります。
●セカンドレベル
ファーストレベルを修了している人が進むコースで、主に看護単位を運営するために必要な知識や考え方を学ぶ内容です。ファーストレベルを修了していることが受講要件ですが、看護部長である人や副看護部長を1年以上経験している人は、ファーストレベルを修了していなくても受講することができます。
●サードレベル
看護のトップマネジメントとして必要な知識を学び、考え方を訓練するコースです。看護部のマネジメントはもちろん、病院全体の経営に参画し、社会の動向に沿った対応ができるようになることが目標です。セカンドレベルを修了していることが要件ですが、看護部長や副看護部長を1年以上経験している場合は免除されます。
ファーストレベル・セカンドレベル・サードレベルのカリキュラム、合格基準、費用など
これら3つのカリキュラムは共通した5単元で、レベルによって内容がグレードアップしていきます。
2019年度からカリキュラムが改定される予定で、以下の5つに演習を加えた6つの項目で、レポートなどの課題が課せられます。
・ヘルスケアシステム論
・組織管理論
・人材管理
・資源管理
・質管理
各コースの修了要件は、
・すべての単元の課題が合格基準を満たすこと
・各単元の講義出席時間が、総時間の4/5以上であること
となっています。
気になる費用については養成機関によって多少の差がありますが、おおむね以下のようになっています。
ファーストレベル:100,000~150,000円
セカンドレベル :170,000~230,000円
サードレベル :250,000~350,000円
各都道府県の看護協会が養成機関である場合は、会員と非会員で大きく費用の差がありますので、非会員の方は注意が必要です。
養成機関の探し方
ファーストレベル・セカンドレベル・サードレベルを開講している養成機関は、各都道府県の看護協会から民間の施設までさまざまです。
看護協会で実施しているコースについては、都道府県によって多少の差はありますが、一定期間集中して講義を受ける形式がほとんどです。したがって、研修期間中は仕事に行くことができなくなるため、受講する場合は病院側の許可とスタッフの協力が不可欠です。
一方、病院グループや民間の施設が開催しているコースについては、受講しやすいように講義を週末のみに限定していて、仕事をしながら受けられるものもあります。費用や通いやすさ、仕事との兼ね合いなども含め、ご自分に合った養成機関を見つけることが重要です。
日本看護協会HPの検索システムを利用すると、都道府県別の養成機関を調べることができます(http://nintei.nurse.or.jp/certification/General/GECI01LS/GECI01LS.aspx)。
自分に合ったキャリアを見つけるために
看護師は一生涯の資格ですが、歳を取ったら夜勤をバリバリやったり入浴介助をしたりといった、若い頃と同じような働き方ができるとは限りません。看護の上位資格を取得しておくことで、将来的にもさまざまな場面で役に立つことがあります。
日頃から自分が好きなこと、やりたいことはどういったことなのかを考えながら看護に取り組んでいると、ある時突然目の前にキャリアへの道(キャリアパス)が広がることがあります。
やりがいを持って長く続けられるキャリアの一つとして、看護管理者を選択肢に加えてみてはいかがですか?
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