スピリチュアルなおはなし

「憑き物落とし」の儀式で観念を書き換える

 京極夏彦という作家さんをご存知ですか?

 幅広い作風をお持ちで、時代ものから未来もの(?)まで様々な視点の小説を書く作家さんなのですが、私はその中でも「京極堂シリーズ」というのが大好きで、全部読んでいます。

 中でも「姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)」「魍魎の匣(もうりょうのはこ)」といった初期2作品は、堤真一さん主演で映画化もされていますので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。

 京極堂というのは、シリーズの主人公で、古本屋の店主であり神主であるという設定の、独特の存在感をもつ人物です。

 彼は自分の領域から出ることなく、事件についてもたらされる情報を聞くだけで事件の謎を解き、物語の最後に事件の現場に赴いて、見事解決に導くというアームチェア・ディテクティブなのです。

 京極堂は事件の解決を「憑き物落とし」と呼びます。
 実際に解決のため現場に赴く時は、神社で祝詞をあげ、憑き物落としの装束に身を固め、独特な雰囲気を纏い姿を現します。

 それだけ聞くと、神主さんがお祓いをするような感じで、文字通り目に見えない「憑き物」を落とすのかと思われがちですが、実はそうではありません。

 物語そのものや、京極堂の持つ雰囲気とは裏腹に、このシリーズの根底に流れているのは、常に「論理的思考」と「心理学」です。
 京極堂は、古本屋に訪れる仲間たちからもたらされる情報を元に、論理的思考を展開し、心理学の知識を駆使して、一見オカルト事件のように思える複雑な出来事を紐解いていきます。

 京極堂の決め台詞である「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」という言葉にも、その解決手法の考え方が現れていると感じます。

 つまり、起きている事象というのは、一見それがどんなに不可解でオカルトチックであったとしても、結局は人間が行っているもので、すべてちゃんと説明がつくものであるということ、そして人間がいかに潜在意識に刷り込まれた考えに「憑りつかれて」いて、そのおかげで好ましくないことが起きるのだということが、根拠を持って示されているというわけです。

 要するに、ここでいう「憑き物」というのは、何もお化けだとか祟りだとかそういった類のものではなく、人の観念そのものだということです。

 京極堂は、理論的思考をもってその観念を引きずり出し、可視化し、こんなものは単なるまやかしだと説明します。それによりすべての謎は霧が晴れたように消えてしまい、複雑怪奇な事件は見事な解決へと導かれるのです。

 私はまさにこのことが、人間世界で起きているすべての出来事に通じると感じます。それぞれが持っている観念を書き換えるだけで、もっと人間関係は円滑になるし、世界は平和になるはずなのです。

 でも、みんながみんな、自分が信じていることがすべてであり、それが正しいと思い込んでいるため、利害関係が衝突したり、憎しみや許せないという感情が生まれたりするのだと思います。

 そしてそういった感情に支配されている状態が、「憑き物が憑いた」状態なわけなのです。

 私たちは、自分から好んで憑き物に憑りつかれています。

 でも、そのことには全く気付いていません。

 自分はどうしてこの苦しみから逃れられないんだろうと悩み苦しみ、それを誰か他者のせいにしたがる生き物です。

 本当は自分自身が、自分の作り上げた観念に縛られているだけだということに気づくだけで、ウソのように憑き物が落ち、生まれ変わったような感覚を持つはずなのに、です。

 京極堂はそのことを、物語の登場人物たちの行動を通じて、私たちに教えてくれます。

 日本人が神社に行くのも、自分自身と向き合う時間を作り、心を内面に向けて祈る内観を通して、「セルフ憑き物落とし」をするためなのではないかと感じます。

 京極堂シリーズはとても分厚くて重い本ですが、面白いし勉強にもなるので興味のある方は是非読んでみてください。

 きっと不思議な感覚を味わうことができると思いますよ^^

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