新卒ですぐ県立のがんセンターに就職した私ですが、すでに30年近く前ということもあり、今のように新人看護師が大切にされる時代ではありませんでした。
毎日師長や先輩たちにしごかれ(笑)、辛いと思いながらもなんとか食らいついていき、気付けば後輩や新人を指導する立場になっていました。
でも、がんセンターという特殊性が自分に合わないと感じ始めたのもそのころでした。どんなに治療を頑張っても元気になって帰っていく人は少ないし、たとえ手術などの治療がうまくいって退院したとしても、ほとんどの患者さんがまた戻ってきてしまいます。そして、辛い最期を迎えるのです。
今のようにホスピスも一般的ではありませんでしたし、リビングウィルという考え方も浸透していません。患者は医師から言われるまま手術の同意書にサインをし、辛い化学療法を受け、放射線治療で皮膚が焼けただれ、そんな思いをしながらもいろいろなところに転移し、生活の質(QOL)が低下し続けたまま、衰弱し最期は病院のベッドの上で死を迎える。そんな患者さんを看ることに疲れてしまった私は、心機一転、退職して海外逃亡(!)することを決めたのです。
学生の頃からあこがれていたロンドンに渡り、英語を勉強したり様々な仕事を掛け持ちしながら、ロンドンの中心部にある日本人向けのクリニックに職を得ることができました。そこで多国籍のスタッフとコミュニケーションを取りながら、クリニックを頼ってくる旅行客や海外駐在員の会社員の方々の対応をしたのですが、そのころのことは私の大きな財産になっています。
ヨーロッパと日本を行ったり来たりしていた期間のあと、日本に帰ってきてからは民間病院に就職して、そこで初めて世の中の厳しさを知りました。卒後最初の就職先だったがんセンターは県立の施設だったため、なんだかんだと恵まれていたことに、外に出てから初めて気づいたわけです。民間病院は県などからの補助はありませんから、自分たちの力だけで経営を成り立たせなければなりません。患者さんに必要な物品を請求したらすぐに納品されていた県立病院と違い、民間病院では必要なものを頼んでも必ず来るとは限らず、それまであるのが当然と思っていたものも、別のもので代用せざるを得ないような状況もしょっちゅうでした。そしてやがては、「これが普通なんだ」と思うようになったのです。
仕事は好きでしたから、結婚しても地域密着型の病院に転職し働き続け、主任・師長とステップアップしていきます。今思えばこのころが、現場のナースとして一番やりがいがあり楽しかった頃ではなかったかと思います。
中でもICUでの経験はとての貴重で、興味深いものでした。地域密着型の病院のICUでしたから、それはそれは色々な方が入院してきました。人工呼吸器から離脱できず褥瘡だらけになってしまった患者さん、心血管の手術が必要な方、心臓カテーテル検査と治療で回復を待つ方、脳血管障害で術後の方、自殺企図による急性薬物中毒や急性アルコール中毒・・・・。それはそれは多岐にわたる疾患を経験し、とても勉強になったのがこのころです。新人教育やICU看護師を育成するためのプログラムや院内マニュアルを作成し始めたのもこの頃です。
その後、妊娠出産に伴う転居がありましたので、退職し1年ほど子育てに専念した時期がありました。臨床に携わってはいなかったけれど、自分の意のままになることのない「小さなひと」とひたすら向き合う日々は、私に看護の基本を思い出させてくれた重要な期間でした。人は自分の思うとおりになるものではない。相手のペースに合わせ共に進むことが、看護や人を育てるということの根本に流れているものなのだ。そんな思いを抱くに至り、やがて看護科長として復職するに至ります。
看護科長というのは、その病院におけるいわゆる看護師長と同等の役職です。私の役割は、医療安全管理・呼吸療法・摂食嚥下療法の3つを兼務するというものでした。病棟から出て看護部長室付きになり、見るものすべてが新鮮でしたので、たくさん勉強して知識を得、たくさんのスタッフと接して仕事の仕方を確立していったのを覚えています。
認定看護管理者の資格を取ったのもこのころです。24時間の託児所が併設されている病院でしたので、日勤が終わってから急いで研修所まで行って、21時過ぎまで講義を受け、急いで帰って託児所まで娘を迎えに行くというハードな生活が続きましたが、無事にファーストレベルからサードレベルまで修了し、認定試験に合格することができたこのころ、自分は看護管理者としての道を一生歩いていくのだと確信したのを覚えています。
(認定看護管理者の資格取得方法については、https://makoto-kayamori.com/category/%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E5%B8%AB%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97/”こちら、「管理職へのステップアップ -認定看護管理者ってどんな資格?-」をご覧ください。
さて、そんな私がどうしてフリーランスナースを志すに至ったのか。
それはまた、次の機会にお話ししたいと思います。
次回は認定看護管理者となってから、教育師長として経験したこと、大学院に通いながら働いていたころのお話です。
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