前回、「トップマネジメントへの道が開かれた -人生の棚おろし㉚-」では、看護部長としてある地域密着型の病院に着任した時のことを書きました。
今回は、看護部長になった2年目に強烈な逆風に遭った時の話です。
小さいながらも看護部長室を持ち、娘が生まれてから看護管理者として進んできた自分が、やっとこの場所に到達したと思えた最初の一年。仕事はとてもやりがいがありましたし、自分の裁量で変わっていく組織を見ながら、未来にどんな形を作っていこうかと考え、コツコツと準備をすることに喜びを感じていました。
しかし、2年目の夏ごろから、少しずつ雲行きが怪しくなってきたのです。
その病院は、個人で経営している小さなところだったので、良くも悪くもちょっとした変化に左右されてしまいます。言うなれば、医療界という大海原を往く小舟のようなものでした。大型船なら悠々と乗り越えることのできる波であっても、小舟は大揺れに揺れてダメージを受けてしまいます。
2年に一度、診療報酬の改定というのがあるのですが、小舟であった私の所属する病院でも、その年に控えていた診療報酬改定に向けて準備を行っていましたし、看護部としても長期的な視野で少しずつ準備を始めており、そのことは病院上層部にも報告し許可を得ていました。しかし、いろいろなことが理由となって、4月からの収支のバランスが崩れ始めていたのです。
医師を多く雇用したことが一番の原因で、医師の分の人件費が増えたわりに収入が追いつかなったことが打撃に繋がったのですが、人件費のことでは看護部も強く非難されることとなります。
実は私は前年度から人員を増やしていました。その理由として、もともと圧倒的に看護人員が不足していたからです。前任の看護部長のころからなんとか数の上では足りるようにやりくりしてきたようですが、ぎりぎり法に抵触するような人員状況だったので、適正な状態まで引き上げる必要があったからです。
人員を補充することは、看護部長である私の一存では決めることができません。もちろん経営層と相談して職員を採用していったので、そのことについては責められる謂れはないはずなのですが、病床が埋まっていないことを理由に、看護人員を増やしすぎたということで、私個人が責められることとなります。
私は適正人員に引き上げただけだという説明をしましたが、受け入れられることはありませんでした。
また、夏に採用したある師長についても経営層の間では問題視されていたようです。いろいろな噂話などがまことしやかにささやかれ信じられてしまう組織風土で、私のあずかり知らないところで色々なことが陰で進行するという状況でしたので、気付いた時には修復できないところまでいってしまっていました。
その師長については、最後は私にはどうすることもできないほどに経営層の心証が悪くなってしまったため、関連組織に異動させることで何とか決着を見ましたが、移動先でもトラブルの種になっていたようです。この師長以外にも、その年に採用した数名の看護助手がトラブルを起こして辞めたりしたので、本当に人事面では最悪の時だったといえます。
さらに、以前の記事でも出てきたことのある、私のかつて勤務していた病院でお世話になった看護部長を招いてしまったことが、大きなあだとなります。
その看護部長(Tさんとします)は、その年の4月に転職した病院を1カ月ほどで退職勧告されてしまったといって落ち込んでいました。私はそれまで非常にTさんにお世話になってきましたし、助けていだたいたこともたくさんあったので、私がTさんに恩返しができるのは今だと感じ、Tさんの採用を病院上層部に掛け合ってみたのです。すると、ちょうど新規事業を立ち上げる予定だったことから、そこの事業部長として採用していただけることが決まりました。
私はTさんに恩返しができたと感じ、また一緒に働けることに喜びを感じると同時に、一抹の不安も感じていました。Tさんの人柄をよく知っており、良い部分も悪い部分も理解していたために、これから起きることのある程度の予測がついてしまっていたからでした。
ここでは細かいことは避けますが、案の定いろいろな形でそれまで自分の裁量で仕事をしてきた私のペースが乱されることとなります。
自分の仕事のペースが乱れると、胸の中がざわざわしてきて、いろいろなことをさらに予測して気分が塞いでしまうという悪循環に陥りました。そして予測した事態はことごとくその通りになっていきました。
Tさんが以前から懇意にしていた友人を訪問看護部門のトップとして呼んだとき、私の胸にはふとこんな考えが浮かんできたのです。
「ああ、私はきっと追い出されてしまうんだろうな・・・」
この言葉の意味は、次回、「人生最大の逆風(2)—人生の棚おろし㉜-」でお話ししたいと思います。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました(^^)
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