スピリチュアルなおはなし

生きててくれて ありがとう

 順風満帆という言葉があります。

 帆にたくさん風を受けて、進みたい方向に順調に進む様子を表した言葉です。

 晴れた空の下で、気持ちよくスイスイ進む船の甲板に吹く風は、船の航海を全力で応援してくれます。

 でも、いつも晴れの日ばかりではありません。
 航海には、嵐がつきものです。
 海は荒れ、風は船を殴りつけるように吹き、命の危険すら感じることがあります。

 風は船を応援するどころか、試練を与え試すかのように、船を翻弄するのです。

 よく人生を航海に例えることがあります。だから順風満帆という言葉が生まれたのでしょう。生きていればいいことも悪いことも、快晴の日 も嵐の日もある。
 それは誰にとっても同じことです。何もない人生を送る人など、誰もいないのです。

 幼いころから、母親に壮絶な虐待を受けてきたという人がいました。
 名前を呼ぶだけで怒鳴られ、首を絞められ、生まなきゃよかった、生まれてこなきゃよかったんだと、存在を否定する言葉を投げつけられ続けたそうです。

 大人になり、自由に生きられるはずの今でも、子どもの頃に受けた心の傷は癒えません。普段忘れていても、潜在意識の中に存在し続けて、行動を妨げるブロックとなります。

 存在を否定され続けた人は、自分の存在価値を低く見積もります。上手くいかないことがあると、自分が悪いからだ、自分がそれに値しないからだと、自分を責めてしまいます。その自己否定のビリーフために、上手くいかないこともあります。すると余計にまた自己否定が深まり、自分を貶めるというマイナスのループに陥ってしまうのです。そうやって自分で自分を傷つけていることに気づかないまま、傷ついていることを悟られないように、明るく笑顔で人と接し、元気であることを見せようとするようになります。

 明るくて、笑顔が素敵で、柔らかい波動をまとっている彼女。挨拶のハグをすると、いつもその優しい波動が伝わってきて、気持ちが安らぐのを感じます。

 虐待の傷を隠して、誰にも言えない思いを胸の奥に閉じ込めて、今まで生きてきた。その過程でさまざまなことを学び経験して、今のこの波動を身につけたのだろうと感じます。

 でも本当は、隠しておきたいその傷を、そのブレーキを、自分でしっかりと認識し、外す必要があるのです。彼女は昨日、その勇気を振り絞りました。

 誰にも言えなかった思いを、母親に対する思いを、口にしたのです。

 「どうして? どうしてママって呼んだだけなのに、あなたは私の首を絞めて、生まなきゃよかったなんて言ったの?」

 どうして、どうして。
 ねぇママ、どうしてなの。
 絞り出すような、悲痛なこころの叫びとともに、
 胸に負った傷をさらけ出し、彼女は涙を流していました。

 人生にはいろいろな形があります。誰もが傷を負い、それを隠して生きています。

 でもその傷の程度は人それぞれ。感じ方も人それぞれです。

 人から傷つけられるような言葉を浴びせられたとしても、それを受け取らず、傷つかない人もいます。

 でも、幼い頃に親に愛されず、否定されて育つ苦痛は、必ず深い傷となって残るのです。

 そんな辛い過去を背負っても、優しい波動を纏う素敵な大人に成長した彼女を見ていた時、私の頭に浮かんできたのは、こんな言葉でした。

 「生きててくれてありがとう」

 あなたのようなつらい思いをして、今でも苦しんでいる人たちを、あなたは救うためにここにいる。

 生まれてきてくれて、生きていてくれて、本当にありがとう。

 そんなあなたと一緒にここにいることができて、とても嬉しく感じます。

 私もあなたに負けないように頑張ります。

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